2014年04月23日

第3回全脳アーキテクチャ勉強会が無事終了しました

第3回全脳アーキテクチャ勉強会
?海馬:脳の自己位置推定と地図作成のアルゴリズム?

全脳アーキテクチャ(WBA)研究の最終目標は,人レベルの汎用人工知能を工学的に最速に実現することです.そして,そのために人間の脳全体構造における知的情報処理をカバーできるように脳に寄り添い/参考としたAIアーキテクチャを構築することが有望だと考える研究アプローチです.(※開始背景は文末を参照)

2013年度末からスタートしたこの勉強会シリーズでは,脳の計算機能をできるだけ簡単な機械学習の組合せとして実装するために,2回目以降は各回において脳の各器官に対応した内容での講演とパネルを進めてゆきます.

3回目となる今回は「海馬:脳の自己位置推定と地図作成のアルゴリズム」をテーマとし,WBA構築に必要な機能は一体何か,現段階でどこまで実現できているかを,ボトムアップの神経科学的知見とトップダウンの工学的知見の両方を踏まえて明らかにしていきます.

人において新皮質の内側に位置する海馬は,記憶の座ともよばれ,日々のエピソードについての記憶に関わりますが,進化的には新皮質よりも古く齧歯類においては自己位置推定とマップ生成を同時に行うSLAMとしての機能が中心となります.

そこで当勉強会では,海馬のSLAMとしての情報処理の観点を中心に,三名の先生によるご講演と引き続くパネル討論を行います.

  • 海馬をはSLAMとしてどこまで理解できるのか
  • 自己中心座標から環境中心座標への変換機構
  • 時系列情報の取り扱い
  • 長期記憶と短期記憶:なぜ二つのメモリシステム(情報表現)をもち転送するのか
    • Deep learningのように統計的学習を行う新皮質を海馬はどう支持するのか

今回に勉強会を通じて,人間のように柔軟汎用な人工知能の実現に興味のある研究者,脳に興味のあるエンジニア,関連分野(神経科学,認知科学等)の研究者間での交流を,さらにはかりたいと期待しています.

終了後は,新橋駅周辺にて有志による気軽な懇親会をおこないます.(詳細未定)こちらについても,みなさまのご参加をお待ちしております.

勉強会開催詳細

日 時:2014年4月22日(火曜日) 18:25-20:45(開場: 18:15)

場 所:リクルートGINZA8ビル(G8) 11Fホール
    東京都中央区銀座8-4-17 リクルート銀座8丁目ビル
    http://www.recruit.jp/company/office.html
    (※リクルート様らの好意による会場ご提供)

定 員:定員230名(定員に達し次第締め切らせて頂きます)

参加費:無料

申込方法:ATND( http://atnd.org/events/49541 )で本イベントに参加登録のうえ,受付でお名前(IDなど)をお知らせ下さい.

講演スケジュール

18:20-18:30 オープニング(富士通研究所 山川宏)

18:30-19:00 「SLAMの現状と鼠の海馬を模倣したRatSLAM」(産業技術総合研究所 横塚将志氏)

ロボット・ナビゲーションのコア技術である地図と自己位置の同時推定Simultaneous Localization And Mapping (SLAM) の概要と現状について説明し,鼠の海馬を模倣したRatSLAMと通常のSLAMとの差異を議論する.

19:00-19:30「海馬神経回路の機能ダイナミクス」(公立はこだて未来大学 佐藤直行 教授)

海馬は脳部位の中でも特に記憶機能を担う部位として知られる.今回はナビゲーション課題を中心に,海馬神経回路の構造,場所細胞のシータ位相歳差現象,内嗅野グリッド細胞,海馬傍回の視覚シーン関連部位,などについて概説し,海馬の情報処理機能について議論する.

http://www.fun.ac.jp/research/faculty_members/naoyukisato/

(休憩)

19:40-20:10「人工知能(AI)観点から想定する海馬回路の機能仮説」(富士通研究所 山川宏)

脳で情報の入出力を担う新皮質が大きく発達する進化段階以前から,海馬を中心とした器官は生存に必須のいくつかの時空間的な認識行動機能を担っていたと思われる.そしてこの機能は,知能エージェント(AI分野)では,主にゴール志向エージェントに対応づくと思われる.そこで海馬周辺回路の機能の中でSLAMのに結びつく,自己中心座標から環境中心座標への変換機能とその一般化や,そこにおける情報表現等に関わる仮説を中心に紹介する.

20:10-20:45 パネル討論

パネリスト: 佐藤直行氏,横塚将志氏,山川宏, 一杉裕志
進行: 松尾豊








参考資料/情報

第1回全脳アーキテクチャ勉強会(2013年12月19日)の発表資料

勉強会開催の主旨説明(一杉裕志)
http://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/brain-archi/20131219wba-shusi.pdf
AIの未解決問題とDeep Learning(松尾豊)
http://www.slideshare.net/yutakamatsuo/ss-29407641
脳の主要な器官の機能とモデル(一杉裕志)
http://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/brain-archi/20131219model.pdf
脳を参考として人レベルAIを目指す最速の道筋(山川宏)
http://www.slideshare.net/HiroshiYamakawa/2013-1219ss
第2回全脳アーキテクチャ勉強会(2014年1月31日)の発表資料

開催趣旨説明、「大脳皮質と Deep Learning」産業技術総合研究所 一杉 裕志
https://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/brain-archi/20140131wba.pdf
「Deep Learning技術の今」株式会社プリファードインフラストラクチャー (PFI) 得居 誠也 氏
http://www.slideshare.net/beam2d/deep-learning20140130
パネル討論資料: WBAの実現に向けて: 大脳新皮質モデルの視点から
http://www.slideshare.net/HiroshiYamakawa/wba-2nd-v2ss
その他関連情報

全脳アーキテクチャ勉強会 Facebookグループ(現在200名以上が参加中!)
https://www.facebook.com/groups/whole.brain.architecture/
全脳アーキテクチャ勉強会 公式Twitterアカウント
https://twitter.com/wba_meetings
全脳アーキテクチャ勉強会 公式Noteアカウント
https://note.mu/wba
特集「汎用人工知能への招待」, 人工知能Vol. 29 No. 3 (2014 年5月1日発行予定)
http://www.ai-gakkai.or.jp/vol29_no3/
海馬と大脳皮質感覚連合野の 相互連携のモデルの構想(一杉)
https://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/besom/20130513hippo.pdf
脳と心と人工知能 海馬と記憶
http://nouai.blog.fc2.com/blog-entry-164.html



全脳アーキテクチャ勉強会の開始背景(2013年12月)

人間の脳全体構造における知的情報処理をカバーできる全脳型AIアーキテクチャを工学的に実現できれば、人間レベル、さらにそれ以上の人工知能が実現可能になります。これは人類社会に対して、莫大な富と利益をもたらすことが予見されます。例えば、検索や広告、自動翻訳や対話技術、自動運転やロボット、そして金融や経済、政治や社会など、幅広い分野に大きな影響を与えるでしょう。

私達は、この目的のためには、神経科学や認知科学等の知見を参考としながら、機能的に分化した脳の各器官をできるだけ単純な機械学習器として解釈し、それら機械学習器を統合したアーキテクチャを構築することが近道であると考えています。

従来において、こうした試みは容易ではないと考えられてきましたが、状況は変わりつつあります。すでに、神経科学分野での知見の蓄積と、計算機速度の向上を背景に、様々な粒度により脳全体の情報処理を再現/理解しようとする動きが欧米を中心に本格化しています。 またDeep Learning などの機械学習技術のブレークスルー、大脳皮質ベイジアンネット仮説などの計算論的神経科学の進展、クラウドなどの計算機環境が充実してきています。

こうした背景を踏まえるならば、全脳型AIアーキテクチャの開発は世界的に早々に激化してくる可能性さえあります。 そこで私達は、2020年台前半までに最速で本技術を実現できるロードマップを意識しながら、この研究の裾野を広げていく必要があると考えています。 そしてこのためには、情報処理技術だけでなく、ある程度のレベルにおいて神経科学等の関連分野の知見を幅広く理解しながら、情熱をもってこの研究に挑む多くの研究者やエンジニアの参入が必要と考えています。
posted by hymkw at 21:54| Comment(1) | 日記

2014年01月21日

全脳アーキテクチャ勉強会(第2回)のご案内

汎用人工知能を脳に学びながら目指す方向性を考えてゆくための全脳アーキテクチャ勉強会の第2回目を企画しましした.

1月30日の18時より新橋のリクルートGINZA8ビルにて開催いたしますので,ご興味のある方は,是非ともこちらにアクセス下さい.

   全能アーキテクチャ勉強会(第2回)
      http://atnd.org/event/E0023316

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                                                 オーガナイザー(順不同)
                                                        一杉裕志(産総研)
                                                        山川宏(富士通研)
                                                          松尾豊(東京大)

                   全脳アーキテクチャ勉強会(第2回) 
                     −大脳皮質と Deep Learning −


本会は,機械学習と神経科学の融合の先の超知能の実現を目指し,昨年度末から
スタートした,野心的な勉強会シリーズです.この勉強会を通じて,人間のよう
に柔軟汎用な人工知能の実現に興味のある研究者,脳に興味のあるエンジニア,
関連分野(神経科学,認知科学等)の研究者間での交流をはかりつつ,こうした取
組へ関わるきっかけ作りができればと期待しています,

さらに詳しい趣旨については次の第1回の開催案内を御覧ください.
 ・全脳アーキテクチャ勉強会(第1回):   http://atnd.org/event/E0022131


今回は第2回の勉強会として「大脳皮質と Deep Learning 」をテーマとして,
全脳アーキテクチャ構築に必要な機能は一体何か,現段階でどこまで実現できて
いるかを,ボトムアップの神経科学的知見とトップダウンの工学的知見の両方を
踏まえて明らかにしていきます,

特に下記の3点にから,お三方の先生によるご講演と引き続くパネル討論を行います.

  1. 人工知能における表現獲得の問題
  2. 大脳皮質モデルのベンチマーク・評価方法
  3. 現在の Deep Learning で実現できていないこと

なお,終了後は有志による気軽な懇親会をおこないます,(新橋駅周辺,詳細未定)

みなさまのご参加をお待ちしております,



                                   記


日 時: 2014年1月30日(木) 18:10-21:00

場 所: リクルートGINZA8ビル(G8) セミナールーム
           http://www.recruit.jp/company/office.html

定 員: 定員200名(定員に達し次第締め切らせて頂きます)

参加費: 無料

参加申込:
    ATND(http://atnd.org/event/E0023316)サイトで参加登録の上,
    チケットを印刷して受付にお持ち下さい.


【アジェンダ】

18:00 開場

18:10-18:50 「大脳皮質と Deep Learning」
     (産業技術総合研究所 一杉 裕志 氏)
  大脳皮質と Deep Learning のアーキテクチャには共通の特徴が多くあるが,
  大脳皮質には現在の Deep Learning にはない重要な特徴もある,その中には
  Deep Learning の性能をさらに向上させる有望なヒントが含まれているはずで
  ある,
  そのような特徴をいくつか紹介する,
     参考:「大脳皮質と deep learning の類似点と相違点」
      http://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/rapid-memo/brain-deep-learning.html

18:50-19:30 「視覚皮質の計算論的モデル --- 形状知覚における図地分離と階層性」
    (筑波大学 システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻 酒井 宏 教授)
  形状の知覚は,視覚腹側経路に沿って階層的に処理されて生起される,各領野
  の細胞は異なる受容野(機能)をもち,V1では線分抽出,V2では角(angle)と図
  方向(BO)検出,V4では曲率と面の表現,そしてITでは中程度に複雑な形状の表
  現,といった機能を示す,皮質では形状を直接求めずに,階層的に計算を分散
  していると言える,ここではまず,図方向知覚(図地分離)を取り上げて,その
  神経機構理解の研究を紹介する,次に,階層性の本質は皮質における情報表現
  にあり,自然画像の統計的性質と神経細胞活動の疎性である可能性を紹介する,

19:30-19:40 休憩 10分間

19:40-20:20 「Deep Learning技術の今」
  (株式会社プリファードインフラストラクチャー (PFI) 得居 誠也 氏)
  人工ニューラルネット研究の歴史は長いが,2000年代後半から画像や音声の認
  識および自然言語の意味計算の分野において階層の深いニューラルネットを学
  習するDeep Learningが急速に発展してきている,本発表では特にこの数年で
  の成功例を紹介し,深いニューラルネットの構成と学習手法,および今後の発
  展の行方について述べる,

20:20-20:50 パネル討論
進行:富士通研 山川 宏氏,東大 松尾 豊氏



【参考資料】第一回の発表資料

・勉強会開催の主旨説明(一杉裕志)
http://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/brain-archi/20131219wba-shusi.pdf

・AIの未解決問題とDeep Learning(松尾豊)
http://www.slideshare.net/yutakamatsuo/ss-29407641?from_search=3

・脳の主要な器官の機能とモデル(一杉裕志)
http://staff.aist.go.jp/y-ichisugi/brain-archi/20131219model.pdf

・脳を参考として人レベルAIを目指す最速の道筋(山川宏)
http://www.slideshare.net/HiroshiYamakawa/2013-1219ss


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2014年01月13日

汎用人工知能(AGI)の究極ゴールとしてのPhysical AI

Physical AIについては,何から説明したらよいか悩むところではある.

そこでまず最初に説明したいのは,
Physical AIは,人工知能(AI),特に汎用人工知能(AGI)の目指すべき究極のゴールであると同時に,そのゴールを設定しようとする試みであるという点である.

生物が生き残るためには"どのような状況に対してもそれなりに対応できる汎用性"は明らかに重要であり,肉体的には特に強みのない人間という種が反映している原動力であろう.
汎用的な知能の創造を目指した研究は,21世紀に入ってAGI(artificial

general intelligence)という研究分野として再興してきている.また松原仁氏は最新のAI学会誌(Vol.29,No.1)のレクチャーシリーズ「人工知能とは?(7)」において,この点を強調している.
知能システムに限ったことではないが,一般的に言って特化したシステムほど,その実現においての性能や効率を高めることができる.

これは,ノーフリーランチ定理no-free-lunch theoremNFLT(Wolpert and Macready, 1995)で言われている,"コスト関数の極値を探索するあらゆるアルゴリズムは、全ての可能なコスト関数に適用した結果を平均すると同じ性能となる"と表裏一体である.

この関係を概念的に示すために,汎用性(general-purpose)と計算量の二つの軸において,それなりに効率的に実装された知的なプログラムをプロットすることを考える.すると,汎用性を高めるほど計算量が急激に増大するような曲線の上に,概ね分布するであろう.

 

PhysicalAIとは-1.png

図1: 実現可能な究極のAGIとしてのPhysical AI
 
理論的には,あらゆる知的プログラムの可能性を組み込んだ,ユニバーサルAIを考えることができ,例えばMarcus Hutter (http://www.hutter1.net/) によるAIXIなどの研究がなされている.ユニバーサルAIは現実的な計算量で実行できず,実用的な意義はないが,理論的な研究においての価値は高いと思われる.(今後説明予定)

一方で現状のAIは,しばしば人間の能力を上回りながらも,特定の目的に特化しており,しばしばNarrow AIと呼ばれる.

対して人間の脳は,Narrow AIに比べても,また他の動物の脳に比べても経験を積むことで多くの問題に柔軟に適応できる汎用性を持っている.(ただし,生物学的な制約も多いために知能計算として究極的なレベルであるとは考えられない.)

そこで,人の脳よりも汎用的なAGIの究極的な姿がなんであるかと考えるならば,それは我々が生きている物理世界の一般的な制約に基いて計算量を現実的なレベルにダウンスケールした知能の形ではないかと考えられる.

そこで,私は,これをPhysical AIと呼ぶことにし,それがAGIの究極のゴールになるのではないかという考えに至った.

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